「売上はそれなりにあるのに、将来のお金が貯まっている実感がない」「会社員の友人には退職金や厚生年金があるのに、自分には何もない」。個人事業主として働いていると、こうした不安を感じることがあるのではないでしょうか。
実際、個人事業主は会社員に比べて受け取れる年金が少なく、退職金の制度もありません。そのぶん自分で備える必要がありますが、小規模企業共済、iDeCo、NISAなど制度がいくつもあり、「どれから始めればいいのか」「事業のお金を減らしすぎないか」と迷ってしまいがちです。
本記事では、個人事業主に資産形成が必要な理由を整理したうえで、使える5つの制度の違いを比較表で解説します。あわせて、何から始めるかの優先順位、掛金の決め方、失敗しないための注意点まで紹介します。
読み終えるころには、自分の事業の状況に合わせて、どの制度に・いくらずつお金を回せばいいかを判断できるようになります。
結論からお伝えすると、個人事業主の資産形成は「生活と事業の手元資金を確保したうえで、節税できる制度から無理のない額で始める」のが基本です。
※本記事はプロモーションを含みます。制度の内容は2026年10月時点の公表情報をもとにしています。掛金の上限や税金の扱いは改正されることがあるため、最新の情報は各制度の公式サイトでご確認ください。
1. 個人事業主こそ資産形成が必要な理由
1-1. 会社員より年金が少なく、退職金もない
個人事業主が資産形成をしたほうがいい一番の理由は、老後に受け取れる公的年金が会社員より少ないからです。
会社員は国民年金に加えて厚生年金にも加入しますが、個人事業主が加入するのは原則として国民年金だけです。マネハブの解説では、厚生労働省の令和4年度のデータをもとに、受給額の平均が次のように紹介されています。
| 加入していた年金 | 平均受給額(月額) |
|---|---|
| 国民年金(老齢基礎年金)のみ | 約5.6万円 |
| 厚生年金(基礎年金を含む) | 約14.4万円 |
月に約9万円、年間でおよそ100万円の差です。さらに、会社員には勤務先の退職金制度がありますが、個人事業主にはありません。年金と退職金の両方を、自分で準備する必要があるということです。
1-2. 病気やケガで働けなくなったときの備えが薄い
会社員が加入する健康保険には、病気やケガで休んだときに給与の一部が支給される「傷病手当金」があります。一方、個人事業主が加入する国民健康保険には、原則としてこの制度がありません。
働けなくなると、収入がそのまま止まってしまうのが個人事業主の弱点です。だからこそ、老後資金だけでなく、いざというときに使える蓄えも持っておく必要があります。
1-3. 節税しながら貯められる制度がそろっている
不安な話が続きましたが、明るい面もあります。個人事業主には、掛金が所得控除になり、税金を減らしながら将来の資金を貯められる制度が用意されています。
たとえば、小規模企業共済やiDeCoは掛金の全額が所得控除の対象です。所得税と住民税を合わせた税率が30%の人が年間36万円(月3万円)を掛けると、税金がおよそ10万円前後軽くなる計算です。同じ36万円を普通に貯金するより、手元に残るお金は大きくなります。
つまり、個人事業主は「備えが必要な立場」であると同時に、「制度を使えば効率よく備えられる立場」でもあるのです。
2. 個人事業主が使える資産形成の制度5つ
2-1. 小規模企業共済|自分で作る退職金
小規模企業共済は、個人事業主や小さな会社の経営者が、廃業や引退に備えて退職金を積み立てる国の制度です。運営は国の機関である中小機構(中小企業基盤整備機構)が行っています。
- 掛金は月1,000円〜7万円の範囲で、500円単位で自由に決められる
- 掛金の全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除になる(年最大84万円)
- 廃業時などに受け取る共済金は、一括で受け取ると退職所得として扱われ、税負担が軽くなりやすい
- 納付した掛金の範囲内で、事業資金などを借りられる「契約者貸付制度」がある
注意したいのは、自己都合で途中解約すると元本割れすることがある点です。解説記事によると、掛金の納付期間が12か月未満で任意解約すると解約手当金は受け取れず、240か月(20年)未満の場合は掛けたお金を下回るとされています。長く続けられる金額に設定することが大切です。
小規模企業共済の仕組みや節税額の目安は、「小規模企業共済とは?メリット・デメリットと節税額の目安をFPがやさしく解説」で詳しく紹介しています。
2-2. iDeCo|自分で運用する年金
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自分で掛金を出し、自分で選んだ商品で運用して、老後に受け取る年金制度です。
- 個人事業主(第1号被保険者)の掛金の上限は月6.8万円(国民年金基金などと合算)
- 厚生労働省によると、2026年12月からはこの上限が月7.5万円に引き上げられる予定
- 掛金の全額が所得控除になり、運用で得た利益にも税金がかからない
- 受け取るときも、一時金なら退職所得控除、年金なら公的年金等控除の対象になる
税金面のメリットが3つそろっている一方で、原則60歳まで引き出せません。また、投資信託を選んだ場合は元本割れの可能性もあります。60歳まで使わないと決められるお金で取り組みましょう。
2-3. 新NISA|いつでも引き出せる非課税の投資枠
新NISAは、投資で得た利益に税金がかからない制度です。金融庁の案内によると、2024年からの新しいNISAは次のような仕組みです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 年間投資枠 | つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円=合計360万円 |
| 生涯の非課税保有限度額 | 1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで) |
| 非課税保有期間 | 無期限 |
NISAの強みは、必要なときにいつでも売却して現金にできることです。売った分の枠は翌年以降に復活するため、柔軟に使えます。
ただし、マネーフォワードの解説にあるように、NISAで投資したお金は事業の経費にはできず、iDeCoのような所得控除もありません。また、NISA口座で出た損失は、ほかの利益と相殺(損益通算)できない点にも注意が必要です。
2-4. 国民年金基金・付加年金|国民年金の上乗せ
国民年金だけでは足りない年金を、上乗せで増やす制度もあります。
- 国民年金基金:個人事業主向けの公的な上乗せ年金です。掛金は全額所得控除になり、終身年金を基本に、将来もらえる額があらかじめ決まっています。iDeCoと合わせた掛金の上限があります。
- 付加年金:月400円の付加保険料を国民年金に上乗せして納めると、将来の年金額が増える制度です。少ない負担で始められるのが特徴です。
なお、付加年金と国民年金基金は同時に加入できません。どちらか一方を選ぶことになります。
2-5. 5つの制度を比較表で整理
ここまでの5つの制度を、表でまとめました。
| 制度 | 掛金の目安 | 所得控除 | 途中で引き出せるか | 向いている目的 |
|---|---|---|---|---|
| 小規模企業共済 | 月1,000円〜7万円 | ○ 全額 | △ 解約は可能だが短期は元本割れ。貸付制度あり | 事業をやめるときの退職金 |
| iDeCo | 月5,000円〜6.8万円(2026年12月〜7.5万円) | ○ 全額 | ✕ 原則60歳まで不可 | 老後の年金を増やす |
| 新NISA | 年360万円まで | ✕ なし | ○ いつでも可能 | 中長期の資産づくり、教育資金など |
| 国民年金基金 | iDeCoと合算で上限あり | ○ 全額 | ✕ 不可 | 一生続く年金を確保する |
| 付加年金 | 月400円 | ○ 全額(社会保険料控除) | ✕ 不可 | 少額で年金を上乗せする |
節税効果を重視するなら小規模企業共済とiDeCo、使いやすさを重視するならNISAというのが、大まかな使い分けです。
3. 何から始める?優先順位と掛金の決め方
3-1. まずは「生活防衛資金」と「事業の運転資金」を確保する
資産形成を始める前に、すぐに使える現金を手元に残しておくことが最優先です。
マネーキャリアの解説では、起業後の資産運用の前に、最低3〜6か月分、できれば1年分の生活費と事業を続けるための資金を確保するよう勧めています。個人事業主は、取引先からの入金が遅れたり、売上が急に落ちたりすることがあるためです。
あわせて、事業用と個人用の口座を分けておくことも大切です。お金の流れがはっきりして、毎月いくら資産形成に回せるのかが見えやすくなります。
事業資金が足りなくなったときの選択肢は、「個人事業主の資金調達方法8選|目的別の選び方と審査のコツをFPが解説」で詳しく紹介しています。
3-2. 事業の状況別・おすすめの始め方
どの制度から始めるかは、「売上が安定しているか」と「そのお金をいつ使うか」で決めると迷いません。ここでは、状況別の始め方の一例を紹介します。
| 事業の状況 | おすすめの始め方 | 理由 |
|---|---|---|
| 開業1〜3年目で、売上が不安定 | NISAを少額で積み立て+小規模企業共済を最低額から | 引き出しやすさを優先しつつ、退職金づくりの期間を早めに積み上げる |
| 売上が安定し、税金の負担が重くなってきた | 小規模企業共済とiDeCoの掛金を増やす | 所得控除による節税効果が大きくなる |
| 余裕資金があり、長期で増やしたい | 上記に加えてNISAの枠を活用 | 運用益が非課税で、いつでも引き出せる |
一般社団法人初東互助会の解説でも、売上が不安定な時期は流動性(引き出しやすさ)を重視し、60歳まで使わない余剰資金が確認できてからiDeCoを追加する、という考え方が紹介されています。
3-3. 掛金は「無理のない額」から始めて、年に1回見直す
掛金は、最初から上限まで使う必要はありません。少なめの額で始めて、売上の見通しが立ってから増やすほうが、途中で払えなくなるリスクを減らせます。
掛金を決めるときは、次の順番でお金を分けて考えるとスムーズです。
- 毎月の生活費
- 税金・社会保険料の支払いに備えるお金
- 事業の運転資金
- 残ったお金のうち、長く使わない分を資産形成へ
そして、確定申告の時期など年に1回、所得の見込みと掛金のバランスを見直しましょう。掛金を増やして所得控除が増えた年は、ふるさと納税の上限額も変わるので、あわせて確認しておくと安心です。
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4. 個人事業主の資産形成で失敗しないための注意点
4-1. 事業資金まで投資に回さない
いちばん避けたいのは、事業の運転資金まで投資に回してしまい、資金繰りが苦しくなることです。
マネハブの解説でも、よくある失敗として、取引先からの入金が遅れたときに外注費や家賃、税金の支払いが滞ってしまうケースが紹介されています。相場が下がっているときに慌てて売ると、損失が確定してしまうこともあります。
資産形成に回すのは、あくまで生活費と事業資金を確保したうえでの「余ったお金」と考えましょう。
4-2. 「すぐ増える」話やハイリスクな投資に飛びつかない
本業が忙しい個人事業主ほど、「短期間で大きく増える」といった情報に引かれやすいものです。しかし、値動きの大きい投資は、本業に集中する時間や気持ちを奪ってしまいます。
金融庁のNISA特設サイトでも、資産形成の基本として「長期・積立・分散」の考え方が紹介されています。毎月決まった額を、複数の資産に分けて、長く続けるのが、忙しい人にも続けやすい方法です。
4-3. 受け取るときの税金まで考えておく
節税できる制度は、受け取るときの税金まで含めて考えることが大切です。
iDeCoや小規模企業共済は、受け取り方によって「退職所得」や「公的年金等」として税金がかかります。両方を同じ年に一時金で受け取ると、退職所得控除の枠を分け合うことになり、思ったより税金が増える場合があります。受け取る時期をずらすなど、出口の計画も早めに考えておきましょう。
4-4. 不動産投資は「条件」を確認してから検討する
資産形成の手段として、ワンルームマンションなどの不動産投資を勧められることもあります。ただし、不動産投資は借入をして行うことが多く、個人事業主はローンの審査で確定申告書の所得を複数年分見られるなど、会社員より条件が厳しくなりがちです。
まずはNISAやiDeCoなどの制度をしっかり使い、そのうえで余裕があれば検討する、という順番で考えるのが安全です。
4-5. 迷ったらFPなどの専門家に相談する
制度が多く、事業の状況によって最適な組み合わせが変わるのが、個人事業主の資産形成の難しいところです。一人で判断するのが不安なときは、FP(ファイナンシャルプランナー)などのお金の専門家に相談するのも一つの方法です。
無料で相談できるサービスもあるので、「自分の場合、どの制度にいくら回せばいいか」を一度プロに確認してみると、迷いがなくなります。相談するときは、直近の確定申告書や毎月の収支がわかるものを用意しておくと、具体的なアドバイスをもらいやすくなります。
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5. まとめ|個人事業主の資産形成は「手元資金の確保」と「節税できる制度」から
個人事業主は、会社員より年金が少なく、退職金もありません。そのぶん、節税しながら将来に備えられる制度を上手に使うことが大切です。最後に、始める前に確認したいポイントをチェックリストで振り返りましょう。
- ✅ 生活費と事業の運転資金を、最低3〜6か月分は確保している
- ✅ 事業用と個人用の口座を分けている
- ✅ 小規模企業共済・iDeCo・NISAの違いと、引き出せる時期を理解した
- ✅ 売上の状況に合わせて、始める制度の優先順位を決めた
- ✅ 掛金は無理のない額から始め、年に1回見直す予定を立てた
- ✅ 受け取るときの税金(出口)についても考え始めた
まず取り組みたいのは、手元に残すお金を決めたうえで、小規模企業共済やNISAを少額から始めることです。小さな一歩でも、早く始めるほど時間を味方につけられます。
よくある質問
Q. 小規模企業共済とiDeCoは、両方に加入できますか?
A. 両方に加入できます。どちらも掛金の全額が所得控除になるため、併用すると節税効果が大きくなります。ただし、どちらも途中で自由に引き出しにくい制度なので、手元資金とのバランスを考えて掛金を決めましょう。
Q. NISAで投資したお金は、経費にできますか?
A. できません。NISAでの投資は個人の資産運用として扱われるため、事業の経費にはなりません。事業用の口座から資金を移す場合は、事業主貸として処理するなど、事業と個人のお金を区別しておくことが大切です。
Q. 売上が少ない年は、掛金を減らせますか?
A. 小規模企業共済は掛金の増額・減額ができ、iDeCoも掛金の変更や拠出の一時停止ができます。NISAも積立額の変更や停止が自由です。売上が落ちた年は無理に続けず、掛金を見直しましょう。
Q. 法人成りした場合、これらの制度は続けられますか?
A. 小規模企業共済は、会社の役員になった場合も引き続き加入できる場合があります。iDeCoは、会社員(第2号被保険者)としての掛金の上限に変わります。法人成りを考えるときは、制度ごとの手続きも確認しておきましょう。


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